【コラム】働き方改革から5年。法律と現場の"ズレ"は解消されたか(2026.3.11)
2019年に始まった働き方改革関連法。残業時間の上限規制をはじめ、多くのルールが導入されてから5年が経ちました。
「現場はどう変わったのか」「法律と実態にズレはないのか」——そうした疑問に答えるべく、厚生労働省が2025年10月から12月にかけて大規模な総点検調査を実施しました。労働者3,000人へのアンケートと、全国327社・労働者97人へのヒアリングから見えてきたのは、私たちの"思い込み"とは少し異なるリアルな姿でした。
<残業を増やしたい」は、実は少数派だった>
「今の労働時間をどうしたいか?」——この問いへの回答が、下の表です。
| 回答 | 割合 |
|---|---|
| このままでよい | 約60% |
| 減らしたい | 約30% |
| 増やしたい | 約10% |
「増やしたい」はわずか1割。さらに踏み込んで「月あたり何時間の残業が妥当か」を聞いたところ、こんな結果になりました。
| 妥当だと思う残業時間(月) | 累計割合 |
|---|---|
| 0〜20時間以下 | 約66% |
| 0〜45時間以下 | 約93% |
9割以上の労働者が「月45時間以内が妥当」と回答しています。 これは現在の労基法が定める原則的な残業上限と一致しており、「法律が厳しすぎる」と感じている経営者の方にとっては、意外な数字かもしれません。
<「増やしたい」の背景にある、収入面の切実な事情>
残りの約10%、「増やしたい」と答えた方の理由はこちらです。
| 理由 | 割合 |
|---|---|
| たくさん稼ぎたい | 42% |
| 自分のペースで仕事をしたい | 20% |
| 残業代がないと家計が厳しい | 16% |
| 仕事の完成度・業績を高めたい | 10% |
| 会社・社会に貢献したい | 10% |
注目すべきは、「働きたい」というより「稼がなければならない」という切実な事情が背景にある点です。住宅ローン、子育て費用、老後の備え——こうした生活上の必要性から、やむなく残業を希望しているケースが少なくありません。
「うちの社員は残業したがっている」と感じている場合も、その背景には賃金水準や処遇の問題が潜んでいる可能性があります。単に残業させることで解決するのではなく、賃金体系や評価制度の見直しを検討することが、より本質的な対応につながるかもしれません。
<企業の本音も「増やしたくない」が8割超>
企業側のヒアリング(327社)でも、傾向は似ていました。
| 企業の希望 | 社数 | 割合 | 主な理由 |
|---|---|---|---|
| 現状のままがいい | 201社 | 約61% | 業務量との兼ね合い・人材確保・健康配慮 |
| 減らしたい | 73社 | 約22% | 採用競争力の強化・人件費の抑制 |
| 増やしたい | 53社 | 約16% | 繁忙期対応・受注拡大 |
| うち、上限規制を超えてまで増やしたい | 17社 | 約5% | 業務の性質・人手不足 |
「残業を増やしてでも仕事を回したい」という企業が多いように見えることもありますが、実態は多くの企業が法律と同じ方向を向いていることがわかります。
<現場の「本当の課題」は、制度の水準より使いやすさ>
調査を通じて特に目立ったのは、「ルールが複雑すぎて、理解・運用が追いつかない」 という声でした。具体的には以下のような内容です。
- 変形労働時間制・裁量労働制:適用範囲の判断が難しく、実務での運用に迷う
- 副業・兼業の通算ルール:複雑すぎて、解禁に踏み切れない企業が多い
- 36協定の届出:事業場ごとの手続きが煩雑で、中小企業には特に負担が大きい
また、建設業や運送業では「受注側がいくら頑張っても、発注者や荷主側の慣行が変わらない限り長時間労働はなくならない」という構造的な問題も浮き彫りになっています。法律だけでは解決できない、業界全体での取り組みが求められています。
<この調査が示すこと>
今回の総点検が示したメッセージは、シンプルにまとめるとこうなります。
「法律の方向性と、現場の感覚は、思っているよりずっと近い。課題は水準ではなく、制度の使い勝手と運用の実態にある。」
厚生労働省はこの調査結果をもとに、今後の労働基準法制の見直し議論を進めていく方針です。就業規則や36協定が実態に合っているか、残業管理の仕組みが機能しているか——この機会に、自社の労務管理を一度見直してみることをおすすめします。
📎 厚生労働省 公式発表はこちら 「働き方改革関連法施行後5年の総点検」の調査結果を公表します(厚生労働省)
